大判例

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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)1792号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

日本生命保険相互会社

(以下「控訴人」という)

右代表者代表取締役

伊藤助成

右訴訟代理人弁護士

山下孝之

櫻田典子

入江正信

嶋原誠逸

長谷川宅司

織田貴昭

被控訴人(附帯控訴人)

甲野花子

(以下「被控訴人」という)

右訴訟代理人弁護士

野間督司

松本裕美

近藤正昭

林一弘

長谷川敬一

主文

一  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  本件附帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  原判決を次のとおり変更する。

3  控訴人は被控訴人に対し、金二三五七万四六六〇円及びこれに対する平成五年六月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

原判決事実及び理由欄「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決別紙保険契約一覧表及び三枚目表「甲野花子」「島岡佳子」「島岡亨生」を、それぞれ「甲野花子」「島岡住子」「島岡享生」と、同一覧表③の備考欄「継続中」を「解約」と、同⑧の備考欄「H.3.12」を「H5.3.12」と、それぞれ改める)。

第三  証拠

原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由欄「第三 争点に対する判断」と同一であるから、これを引用する。

一  原判決一一枚目表六行目「島岡佳子」を「島岡住子」と改め、一二枚目表五行目「合わせ、」の次に「設計書としては三通目に当たり、運用実績の数字は従前のものと異なる」を加える。

二  同一五枚目表五行目末尾に「同表によれば、運用実績が〇パーセントのときは、解約返戻金が払込保険料を下回ることが明記されているのが明らかである。なお、この点については、吉田がそれまでに被控訴人に交付した従前の設計書の内容も、本件設計書の内容と異ならない。」を加える。

三  同一六枚目表六行目「交付して」から末行目までを「交付したか否かについては、明確な証言をしていない。しかし、吉田証言によれば、吉田は被控訴人に対し、これを同年一〇月一五日と一一月七日には交付していることが認められ、この点に関する被控訴人本人尋問の結果は措信することができない。」と改める。

四  同一七枚目表六行目「供述をする」から末行目「検討するに、」までを、次のとおり改める。

「供述をする。しかしながら、吉田証言によれば、同人は被控訴人に対し、本件設計書の「変額保険の仕組」の項目などを示して、株価に連動して保険金額や解約返戻金が増減するので、変額保険は俗にいうハイリスク・ハイリターンの商品であり、解約したときにも払込保険料だけは償還されるような「元本保証」の制度もないことを説明し、また、本件設計書の例表について、運用実績が年九パーセントの割合による場合に限らず、4.5パーセントや〇パーセントによる場合も説明し、元本割れ(解約返戻金が払込保険料を下回ること)の可能性があることも指摘したことが認められるのである。そして、」

五  同一七枚目裏末行目から二〇枚目裏八行目までを、次のとおり改める。

「(二) もっとも、被控訴人本人尋問の結果によれば、(1)被控訴人は、本件契約の締結に至るまで、株式等の投資商品の取引をしたことはなく、相続税対策に役立つと吉田に言われて、多数の生命保険(定額)に加入してきただけで、金融商品の性格等について特に詳しい知識を持ち合わせていたわけではないこと、本件契約を締結したのは、不動産の購入資金に当てるべき銀行預金の金利が下落したことから、短期間の有利な資金運用を望んだためであること、被控訴人は、本件契約を締結したのち、株価の動向や控訴人の運用実績などについて質問した形跡はなく、吉田も解約返戻金の推移について被控訴人に説明をしたことがないこと、その後は控訴人の運用実績がマイナスに低下したが、吉田もそのことを被控訴人に告げず、被控訴人は吉田の勧めるまま、新たな生命保険(定額)に加入していることが認められるが、(2)変額保険は、高利廻りを期待できる金融商品として、一般の間でも注目を集めていたのであり、また本件契約が締結された平成二年は、同年三月に株価の急落があったものの、なお変額保険の運用利回りの上昇が期待されていた時期であり、「バブルがはじける」事態を誰しも予想することができない経済情勢にあったこと、変額保険の保険料は、保険会社において運用するのであり、保険契約者の投資技術の巧拙によって運用に損益が生じるものでないから、投資商品の取引の経験がなければ、多額の変額保険に加入することはありえないとはいえないこと、変額保険に加入したのちは、これを解約するか否かは、保険契約者が経済情勢や保険会社における資金の運用成績(解約返戻金の金額)、死亡保険金等に基き、自らの判断において行うことができるところ、被控訴人は、後記のとおり控訴人における右運用成績を知りながら、本件契約締結後二年数か月を経た後に自らの判断に基き本件契約を解約していることに照らせば、前記(1)の各事実をもって、被控訴人において変額保険という金融商品の特質を知らずに、本件契約を締結したとはいいがたい。

(三) また、変額保険は、保険契約者が経済変動のリスクを負うという従来の保険にはない特質を有するものであるが、一般になじみのある商品ではなく、運用のメカニズムが世間に浸透していたとは必ずしもいいがたいところである。しかしながら、本件設計書だけを見ても、従来の保険との相違点として、変動保険金や解約返戻金の金額が特別勘定の運用実績に連動しており、運用対象である株式等の相場の変動により、解約返戻金等に相当の変動が生じ、経済情勢によっては元本割れが起きる可能性があることが記載されているのであり、これを通読し、かつ右認定の吉田の説明を受ければ、被控訴人の地位、財産、知的能力等からみて、被控訴人は変額保険の特質及び資金運用の仕組みを容易に理解しえたというべきである。

(四)  なお、吉田は、控訴人における変額保険の運用利回りについては、本件契約締結の当時、株価の急落などにより、その運用がマイナスになっている保険会社が現れていたにもかかわらず、これを被控訴人に告げず、本件設計書においても運用実績がマイナスになる例示をせず、かえって高い運用益が期待されることを強調しているかのようであるが、控訴人や他の保険会社数社においては、そのころ、なお相当の運用利回りを確保していたことも認められ(乙一三の一ないし六、一四、一五の一、二)、「バブル経済」の破綻を予測することが必ずしも期待しえなかった当時の情勢からみて、吉田の右言動が、変額保険における将来の運用利回りに対する被控訴人の理解や予測を妨げたということはできず、被控訴人がより有利な自己の資金の運用の手段として、控訴人の変額保険を選択するについて、吉田が必要な説明を欠いたとはいえない。」

六  同二一枚目裏一行目「平成三年分は気付かず」を削除し、同六行目「送付され」の次に「、被控訴人において、その記載内容を認識してい」を加え、七行目「相当である。」の次に、「平成三年分は気付かなかった旨の被控訴人の供述は、とうてい信用することができない。」を加え、同行目「しかし」から同二二枚目表一行目末尾までを削除する。

七  同二二枚目表五、六行目「のであり、変額保険の特質の説明が十分であったとはいいがたい状況にあるが、さりとて」を「のであるが、変額保険の特質の説明は、本件設計書の記載とあわせれば、ひととおり行われており、」と改め、八行目「説明が」の前に「仮に」を加える。

八  同裏七行目から二七枚目裏七行目までを次のとおり改める。

「吉田が被控訴人に対し、本件設計書を交付することにより、また口頭で、変額保険の特質、仕組みについての説明を行い、被控訴人も本件契約を締結するに必要な知識を得ていたこと、被控訴人が控訴人の将来の運用実績について予測するについて、吉田の勧誘行為がその正確な判断を妨げたことがなかったことは、前認定のとおりであり、この点について、吉田の勧誘が募取法に反するということはない。」

第五  よって、被控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものであるから、これと結論を異にする原判決を取り消し、本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒田直行 裁判官 古川正孝 裁判官 菊池徹)

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